Posted on 2025.04.30
先日公開したブログで、劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)』に登場する巨大パラボラアンテナが、実は当社・新免鉄工所の施工対象であったことをご紹介しました。
今回はその中身の話――つまり、あの大きな"円盤"の内部構造の防錆処理について、少しだけ専門的なお話を。
このアンテナの構造部において、通常の塗料(有機系塗膜)は使用できない、という制限がありました。
というのも、塗料に含まれる有機物が、電波観測に悪影響を与える可能性があるためです。
「とにかく"電波に干渉しない素材で""錆びさせないこと"」
この難題に対して私たちが採用したのが、鉄よりも先に腐食して守ってくれる"犠牲防食"の考え方による、亜鉛溶射でした。
アルミニウム溶射も候補に上がりましたが、点錆(局所的な腐食)の懸念があったため、最終的に亜鉛を選択。
- 鉄を電気化学的に保護する「犠牲陽極作用」
- 成膜後も密着性が高く、自己修復性もある
- 電波に干渉しない"無機金属"
という観点から、まさに最適解でした。
施工当時の話を、今の会長に聞いてみました。
例えば、亜鉛を溶射すると当然重量が増すため、
「望遠鏡の精密な焦点がズレる」という懸念が出たとのこと。
微細なたわみが起これば、観測の精度に直結する――そんな緊張感の中、
厚みや溶射条件を微調整しながら"世界でただ一つの特殊仕様"で仕上げました。
ちなみに、この仕様は後にも先にも一度きりです。
昭和63年。運用開始から8年後、先方による内部点検が行われた結果――
「まったく錆びていない。性能も完璧」
との評価をいただきました。
現場としても「やってよかった」「あれは誇っていい」と、今も語り継がれるプロジェクトです。
この実績が評価され、後にJAXA臼田宇宙空間観測所の64m・54mアンテナの防食塗装にも関わらせていただきました。
映画のスクリーンでは、ほんの一瞬で通り過ぎていく"背景"かもしれません。
でもその背景には、「塗らないことを選び、でも絶対に錆びさせない」という選択と技術が詰まっています。
技術者として、静かに、そしてちょっとだけ声を大にして言いたい。
> あのアンテナの中身、うちがやりました!
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